終了
館内展示
第28回
江戸の美意識-絵画意匠の伝統と展開
平成14年(2002)3月26日(火) ~ 6月9日(日)
宮内庁三の丸尚蔵館
およそ250年に及ぶ江戸時代は、文化とその発展において、支配者層のみならず、庶民の積極的な参加もあり、多彩な文化がはぐくまれた活気ある時代でした。絵画制作においても土佐派や狩野派のような宮廷画師(えし)や御用画師のほかに、独自の画風で一家をなした画師、個性的な表現で人々を魅了した画師らも少なくありませんでした。しかし、そうした彼ら作家たちの制作意識の基本は、あくまでもそれまでに受け継がれてきた伝統的な意匠です。画題、モチーフ、描法など、彼らがそれまでの意匠の伝統をどのように消化して発展させていったのか、言い換えれば、伝統に支えられた江戸時代の美術がどのような展開をみせたのか。そこに江戸時代の美術の面白さがあると言えましょう。
今回の展覧会では、美術品の意匠の中では最も伝統的なものであり、宮廷ゆかりの品々にとりわけ多く含まれる文学と花鳥の意匠に焦点をあてました。『源氏物語』や『伊勢物語』のように多くの人々に愛された物語からの意匠、また名所などの和歌から生まれた歌絵、そして美しい花鳥の意匠は、御所などの建物内の装飾意匠としても、古くから盛んに用いられてきました。このような絵画的な意匠が、江戸時代にはその伝統をどのように取り入れて表現され、展開していったのかを、絵画と工芸の作品を通して紹介します。ややもすれば発展性の欠如した意匠ととらえられがちなこれらが、実は絵画や工芸の様々なものの間で影響し合い、新たな作品を生み出しています。伝統的な要素を取捨選択して新展開させる-江戸期のその美意識を再認識できると思います。
狩野探幽、俵屋宗達、土佐光起、そして伊藤若冲に酒井抱一。いずれも伝統的な意匠に独自の創造性を加味して個性を発揮した人たちが、現在の我々をも魅了する作品を生み出しました。一方、名は知られずとも、伝統的意匠を用いて繊細優美な調度を生み出した作家たちの作品も、ふと我々を日本美の空間に立ち戻らせてくれます。美しく、そして愛らしい絵画的意匠の数々を通して、一時、江戸時代の美意識に触れていただければ幸いです。