皇居三の丸尚蔵館について

概要

 皇室は、わが国の長い歴史の中にあって、いつの世においても、様々な形でわが国の芸術文化に接してこられました。古くは、奈良時代、光明皇后が聖武天皇の供養のために東大寺毘盧舎那仏に奉納された正倉院宝物、平安時代の華やかなりし12世紀の後白河法皇の蓮華王院宝蔵、江戸時代初期の後西天皇以降の東山御文庫など、文化史上に残された歴代にわたる皇室の御足跡は、枚挙にいとまがありません。そして、明治維新後も、古美術品の保護や新しい文化振興のためにも尽力され、帝室博物館の建設などもあって、国民に広く文化を普及させることにもなりました。文化の振興に対するこうした熱心な皇室の御活動を通じ、それまで皇室に伝わってきた品々と合わせて、国内外から多くの優れた美術品が集まることとなりました。



 これらの品々は、宮殿など公式の場の装飾品などとして主に使われ、天皇陛下・皇族方がお身近で御使用になるほか、帝室博物館建設後には、博物館での展覧にも供されていました。‘‘御物’'と敬称されたこれらは、有識者によって評価や保存の検討がなされた上で、用途によって侍従職、主殿寮、内匠寮、図書寮などで管理されていました。



 戦後、それまで御物であった法隆寺献納宝物の大多数が国有となって東京国立博物館へ移管されたほか、正倉院宝物や書陵部所管の品々も国有となって宮内庁で管理されるなどの整理が図られましたが、なお一部は御物として残され、侍従職で管理されてきました。



 平成元年(1989)6月、上皇陛下及び香淳皇后は、昭和天皇まで代々皇室に受け継がれてきた御物の中から、約6千余点の絵画・書・工芸品などを、国へ御寄贈になりました。これら御寄贈品は、一括して宮内庁で管理することとなりましたが、優れた美術品が多く含まれているため、その保存管理に万全の策を講じるとともに広く国民に公開するために、専門の建物、組織を設置することとなりました。建物は平成3年(1991)1月着工、同4年(1992)8月竣工、三の丸尚蔵館と名付けられ、ここに作品を収蔵するとともに、同5年(1993)11月3日より一般展示公開が始まりました。その後、平成8年(1996)に旧秩父宮家からの御遺贈品が、同13年(2001)には香淳皇后の御遺品が、同17年(2005)には旧高松宮家からの御遺贈品が、さらに同26年(2014)には三笠宮家からの御寄贈品が加わりました。



 収蔵品には、平安時代の書の逸品「粘葉本和漢朗詠集」、「金沢本万葉集」、鎌倉時代の絵巻「春日権現験記絵」、「蒙古襲来絵詞」のほか、狩野永徳筆「唐獅子図屏風」、狩野探幽筆「源氏物語図屏風」、伊藤若冲筆「動植綵絵」、近代では下村観山や横山大観、並河靖之、高村光雲らの作品など、各時代を代表する貴重な作品が数多く含まれています。



 三の丸尚蔵館の建物は、これらの貴重な作品を恒久的に伝えていくための保存を重視することから、温湿度管理のできる収蔵庫を備え、一部を展示室として公開しています。そして、専門的な調査研究を行い、また今後は修理などの保存措置を講じながら、その成果を広く公開していくために、活動を進めていきます。