終了

館内展示

第29回
細工・置物・つくりもの-自然と造型

平成14年(2002)7月6日(土) ~ 9月8日(日)
宮内庁三の丸尚蔵館

第29回「細工・置物・つくりもの-自然と造型」の展覧会図録表紙画像

今日のわたくしたちは、「美術」というと、まずは、美術館や展覧会場で鑑賞するような古今東西の絵画や彫刻の名品を思い浮かべることが少なくありません。そして、一般にそれらは例外なく、作者が無から生み出して、自己の個性や内的生命感を表現した独創的な「芸術品」であるに違いないと考えてしまいます。

しかし、実はこのような「美術」=「芸術」という通念は、日本では明治後期以降に19世紀西欧の保守的な美学概念を受け入れることで次第に広まっていった、比較的新しい考え方に過ぎず、それ以前には、「美術」の枠組みはもっとゆるやかで幅広いものととらえられていました。竹筒を切り整えただけの器が花活としてお茶の席で珍重されるのは現代にも続いていることですし、水石のように現在では「美術品」というよりも趣味道楽と考えられがちな分野も、かつては美的鑑賞の対象としては、書画と何ら優劣を問われることなく扱われていました。また、自然物を別の素材で本物そっくりに似せて再現しようとする細工物や造り物も、今日では、ともすれば「美術」よりも一段低い職人芸と軽んじられることが珍しくありませんが、少なくとも近代の一時期までは、「芸術的」な彫刻・彫塑作品との厳密な区別はなされていなかったのです。さらには、現代日本で芸術とは認められることなく、かろうじて「手芸」や「土産物」の中に姿を残すさまざまな造型品も、立派に「美術」の仲間入りをしていたこともあったのです。

本展は、収蔵品の中から、こうした普段は紹介する機会がなかなか巡ってこない、自然物そのままを用いた置物、工芸品をはじめ、多種多彩な造り物、細工物を大きく五つのコーナーに分けて展示することで、これらが果たして本当に、「造型物」として芸術的「絵画」や「彫刻」と本質的に価値の異なるものなのかどうかを考えるきっかけにしていただこうとするものです。どうか、この機会に当館で、「芸術」に身構えるのではなく、素直に「モノ」に驚き、喜び、眼を楽しませるひとときをお過ごし下さい。