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館内展示

皇后陛下喜寿記念特別展
紅葉山御養蚕所と正倉院裂復元のその後

平成24年(2012)3月3日(土) ~ 4月8日(日)
宮内庁三の丸尚蔵館

皇后陛下喜寿記念特別展「紅葉山御養蚕所と正倉院裂復元のその後」の展覧会図録表紙画像

皇室の伝統文化の一つに、明治4年、昭憲皇太后がお始めになり、大正、昭和を経て平成の御代に入った今も、現在の皇后さまにより大切に引き継ぎ、保たれているご養蚕があります。近年、皇后さまがお育ての日本純産種の蚕である「小石丸」から採れる大変に繊細な絹糸が、古代裂の復元に不可欠なものであることが明らかになり、正倉院宝物の復元や貴重な文化財の修理に用いられたことから、次第に人々の間に伝統的な養蚕や古くより日本に伝わる絹糸に対する関心が高まってきています。

この度、宮内庁では、皇后さまが喜寿を迎えられたことを記念し、ご養蚕に関係する品々、これまで二十余年にわたり大切にお育てになり、16年間にわたり、欠かさずに御下賜を続けられた小石丸の絹糸によって復元された正倉院宝物の染織品や、傷んだ表紙裂(ひょうしぎれ)及び巻緒(まきお)の修理を行った鎌倉時代の絵巻の名品「春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)」などの展示を通し、文化的にも意義深い貢献となった皇后さまのご養蚕につき、紹介することといたしました。なお、今回の展示は、7年前、皇后さまの古希をお祝いして行われた「皇后陛下のご養蚕と正倉院(ぎれ)の復元」のその後の進展をお見せするものであり、新たに正倉院宝物2点が追加され、その2点はいずれも宝物の復元模造品の完成した姿で展示されます。

公的なお務めを果たされる中、年毎に行われるご養蚕の諸行事にご出席になり、桑摘みや御給桑を始め様々な作業に携わっていらっしゃる皇后さまには、こうした養蚕のお仕事を、歴代の皇后さまからお譲られになったお仕事として大切になさっており、作業をお助けする関係者の助力に感謝されつつ、楽しくお続けになっていらっしゃいます。また、蚕とは異なり、戸外のケージの中で(くぬぎ)の葉で育つ野生の蚕である天蚕の発育も、若木に卵をつけられてからの成育、繭の完成までを常に注意深くご覧になり、こちらは天皇陛下もその飼育環境の改善等にご関心をもたれ、時にご一緒に作業をなさることもあります。

日本の風土に根付き、人々の知恵と努力に支えられてきた産業や文化の古き良きものを大切に伝えていこうとされるご姿勢は、皇室の様々な伝統文化を継承されること全てにつながっているとも言えましょう。

明治の初めに昭憲皇太后が始められて以来、貞明皇后、香淳皇后、そして皇后さまへと引き継がれてきた宮中のご養蚕に、平成の御代、奈良期の古代裂(こだいぎれ)の復元という新たな道が開かれました。その成果や関係する品々をご覧いただき、紅葉山のご養蚕に、ひいては広く日本の養蚕につき一層理解を深めていただければ幸いです。